大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2564号 判決

ところで、取材に係る事実が真実であると信ずるについて相当の理由があるというためには、新聞の社会に与える影響の甚大であることに鑑み、右の事実が単なる風聞や憶測に依拠するだけでは足らず、それを裏付ける資料又は根拠がなければならないことはいうまでもない。しかし、もともと、報道機関だからといって取材活動につき特別の調査権限が与えられているわけではなく、また、報道に要求される迅速性のために、その調査にも一定の限界が存することに思いを致せば、裏付資料や根拠に高度の確実性を要望することは許されず、殊に、当該記事が本件のごとく政治に関するものである場合には、個人の名誉侵害に対する責任を追求するに急な余り、報道機関を畏縮させて民主主義政治の支柱たる報道の自由を損わないよう配慮すべきであるから、民事上の不法行為の責任阻却事由としての相当の理由については、報道機関をして一応真実であると思わせるだけの合理的な資料又は根拠があることをもって足りるものというべきである。そればかりでなく、新聞が一般社会に与える影響は、記事掲載の仕方や表現の方法によっても異なることは、みやすいところであるから、取材に係る事実の真実性の有無、程度も、単に客観的事実の証明度のみによって決すべきではなく、記事掲載の仕方や表現の方法をも顧慮し、これとの相対的判断によって決定するのが相当である。

しかして、控訴人が本件記事を掲載、頒布するにあたり被控訴人の不正不法な利得が真実であると信じたことは、前段認定の諸事実から推認するのに十分であるので、右のような見地に立って、かく信じたことについて相当の理由があったかどうかを吟味するのに、前段認定の事実関係のもとにおいては、公栄土地建物が都共済連から四億五、〇〇〇万円という巨額の融資を得て、保谷市所有地の払下げを受け、一億七、五〇〇万円にものぼる莫大な利益を得たことに関して、控訴人が何等かの不正が介在しているのではないかとの疑念を懐いたことは、報道機関として、むしろ、当然であるということができる。しかし、控訴人が、たとえその主張するごとく、本件記事の執筆、掲載にあたり周到な裏付調査をするとともに関係者や被控訴人本人とも直接会って取材をしたとしても、被控訴人の不正不法な利得が一応真実であると信ずるだけの合理的な資料ないし根拠を把握していたことについては、本件記録を精査しても、これを肯認せしめるに足る証拠はない。そればかりでなく、本件記事掲載の仕方や表現の方法をみても、それが余りにも主観的、断定的に過ぎるため、前掲甲第一号証によって認められるごとく、控訴人が被控訴人より取材した記事の要旨を前記一二月五日付紙面に、「島田都議の話」として本件記事とともに掲載していることを斟酌しても、控訴人が真実と信じたことについては、相当の理由があるものとは認め難い。それ故、控訴人が本件記事を「北政新聞」に掲載・頒布して被控訴人の名誉を侵害したことは、民事上の不法行為を構成するものといわざるを得ない。

(渡部 柳沢 中田)

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